父を詠む(7/10)
生涯が楷書なるべしわが父の古りたる文字に省略あらず
高橋良子
虹立つと窓辺へ父を誘うにそれはそれはと立ち上りたり
大原輝子
寡黙なる父がをりをり裏庭に鋸の目立ての音軋ませる
小田美慧子
京都より電話をすれば「おお」と言いただそれのみの北に住む父
梅内美華子
古き会報ひらけば広き道場に青年の父が剣を構ふる
中村規子
町よりの土産の玩具あっけなく壊れしかの夜の父を哀しむ
永田和宏
掌(て)に青く名を記されて父もどるはるかなる冬の手術室より
河野小百合
街路樹が手を振る父を隠しきりキツネノカミソリ咲く径に出づ
佐波洋子
*キツネノカミソリ: ユリ目ヒガンバナ科の多年草球根植物。キツネノカミソリは葉が無い状態で花が咲くので、その姿が狐に化かされたようだ、というところから名前がつきたとの説あり。
神楽坂「志満金(しまきん)」の親子丼振りやほんとの父子(おやこ)の顔して食べて
長澤ちづ
*志満金: 150年創業、長い歴史を引き継ぐうなぎ割烹。
泪ため少年われを打ちすゑし父よみがへる つくつくぼふし
浜 守