天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー花(1/10)

  駆け込みの寺の昔は忘れよと艶競ひたる花菖蒲かな

  明けくれば囁きはじむ睡蓮の青きニンフェアカレルレア

  御仏は灼熱の国天竺に檳榔樹(びんらうじゆ)の風沙羅双樹の花

  スカーフを古代弥生の色に染むる遺跡に咲きし紫の蓮

  白蝶の群れて眠ると思ひきや暁露の庭の白れん

  庭に生ふるおしろい花の香をかげば盆を迎ふる故里思ほゆ

  薔薇園の花朽ちそむる昼下がり園丁ひとり薔薇の首剪る

  父島にはつか残りて白々と花弁震はすムニンノボタン

  日の丸の国旗を立てし家一軒黄菊白菊庭にかがやく

  文化の日枯れ残りたる向日葵のうつ向き並ぶ朝川の道

  温室の屋根を透きくる月明り薄くれなゐの睡蓮目覚む

  をちこちに太鼓たたきてとんど焚く梅は蕾の下曽我の村

  土牢跡の黒き格子戸鎮もれる谷戸のなだりに咲く水仙

  白梅の香りいかにと近寄りて蜂の羽音におどろかれぬる

  ぼつてりと咲く八重桜頬に触れそのくれなゐの冷たかりけり

  くれなゐの針のボールの花咲けりボリビア産のカリアンドラ

  まなうらをくれなゐに灼くベゴニアのいづくより来し炎の瞋(いか)り

  塵芥車「乙女の祈り」流しつつ花散り初めし町を巡れる

  雪積みし溶岩台地に生い出づるふふめば甘き花蕨かな

  子供等の植ゑしと小さく書かれたり車道にそひて三色菫

  背伸びしてあたり見回す花の目に静かなりけり沼の水の面(も)

  大温室肩たたかれて振り向けばメディニラ・マグニフィカ花の垂れたり

  黒革の衣装の口に赤き薔薇一輪バイクに颯爽と乗る

  畦道に朱を散らせる死人花黄金の稲に華やぐものを

  サルビアの赤に囲まれ盆を咲くアメリカフヨウの揺るる大輪

  死人花赤き血噴きて咲き盛る黄金の稲穂垂るる田の畦

  死後遊ぶ庭とぞ思ふ池の辺に彼岸花咲き朱の橋かかる

  両脇を支へられつつ父は子の柩に捧ぐ一輪の花

  御仏に向かひて独り墨を磨る人に見とれし草木瓜(くさぼけ)の花

  くれなゐの水噴き出だすごと咲けり白き桜の中に枝垂れて

  石古りし文化四年の常夜燈白木蓮の蕾ふくらむ

  「絵を描いてゐる」と声かけ人どかす日曜画家の紅枝垂れ花

  地を覆ひ棚引く花の雲間より建築中のビルかすみ立つ

  花の下ベンチに寝ねて空見れば枝ちぢれたる裸鈴懸

  くれなゐの水噴き出だすごと咲けり白き桜の中に枝垂るる

 

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