天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー袖・袂・襟(2/11)

  袖ひちてむすびし水の氷れるを春立つ今日の風やとくらむ
                  古今集・紀 貫之
  春ごとにながるる川を花と見て折られぬ水に袖やぬれなむ
                    古今集・伊勢
*「春が来るたびに流れる川に映る梅を本物の花と見て、手折ろうとして
折れない水で袖が濡れてしまうでしょうか。」

  あひにあひて物思ふ頃の我が袖に宿る月さへぬるるがほなる
                    古今集・伊勢
*「 何度も逢った後で、物思いに沈む時の涙の袖に、映る月さえ濡れた顔をしています。」

  散ると見てあるべきものを梅の花うたて匂ひの袖にとまれる
                    古今集・素性
*「梅の花はいつかは散るものだと思って、達観していればよいのに。困ったことに匂いが袖に留まっている。」

  もみぢ葉は袖にこき入れてもて出なむ秋はかぎりと見む人のため
                    古今集・素性
*こき入れて: 振るい落として入れて。

  秋の野のくさのたもとか花薄ほにいでてまねく袖とみゆらむ
                  古今集在原棟梁
*「秋の野の袂だろうか、花ススキは、その穂の身振りで私を招く袖のようだよ。」

  花見つつ人まつ時はしろたへの袖かとのみぞあやまたれける
                   古今集紀友則
*「菊の花のもとにて人の人待てるかたをよめる」との詞書があるので、この歌の花は、菊の花。

  秋の野に笹分けし朝の袖よりもあはでこし夜ぞひぢまさりける
                  古今集在原業平
*「秋の野の笹を分けて歩いた朝よりも、逢えずに帰って来た夜の方が袖が多く濡れた。」

  ぬき乱る人こそあるらし白玉のまなくも散るか袖のせばきに
                  古今集在原業平
*「 緒から抜いて白玉をバラバラと落としている人がいるようだ。絶え間なく飛沫が散りかかってくるよ。受け止めようとするこの袖はそんなに広くないのに。」

f:id:amanokakeru:20200620070933j:plain

梅の花