食のうたー魚介(6/7)
わが背子(せこ)に恋ふれば苦し暇(いとま)あらば拾ひて行かむ恋忘(こひわすれ)
*忘れ貝: 二枚貝の片方だけになったもの。恋忘れ貝は、恋心を忘れることができるとされた貝。一首の意味は、「貴方を恋して苦しくてたまりません。時間があれば、その恋を忘れるという貝を拾って行こうと思います。」
妹がため貝を拾ふと血(ち)沼(ぬ)の海に濡れにし袖は干せど乾かず
万葉集・作者未詳
*血(ち)沼(ぬ)(茅渟): 和泉国沿岸の古名。現在の大阪湾の東部、堺市から岸和田市、泉南郡にかけての湾岸。
から衣袖師の浦のうつせ貝むなしき恋に年の経ぬらむ
後拾遺集・藤原国房
*袖師の浦: ①静岡市清水区袖師町の海浜。②島根県松江市馬潟町、中海に面する海岸。
うつせ貝: 海辺などにある、肉がぬけて、からになった貝。和歌で序詞や枕詞のように用いる。 「実なし」「むなし」や「あわず」「われる」などを言い起こす。
思ひつることたが磯のうつせ貝我が身むなしく世をや過ぎなむ
契沖
忘れ貝いかなる方に拾ひけむそのかたし貝いかで拾はむ
香川景樹
*かたし貝: 二枚貝の貝殻が離れて1枚になったもの。
歌は、忘れ貝の亡くなった方の貝殻をなんとしても拾いたい、という意味。
思ふどちすくなく住みて貝食(は)みしその日いかにか楽しかりけむ
尾上柴舟