天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

かきつばた

横須賀しょうぶ園にて

 あやめ科の多年草。ふるくは、「かきつはた」と清音であった。漢字では、燕子花、杜若などと表記する。花摺の染料。美女の比喩にもなる。万葉集では、七首の短歌に詠まれている。
次に全首あげておく。

  常ならぬ人国山の秋津野の杜若をし夢に見るかも
  住吉(すみのえ)の浅沢小野の杜若衣(きぬ)に摺りつけ着む日
  知らずも
  われのみやかく恋すらむ杜若丹つらふ妹は如何にかあるらむ
  杜若丹つらふ君をゆくりなく思ひ出でつつ嘆きつるかも
  杜若佐紀沼(さきぬ)の菅を笠に縫ひ着む日を待つに年そ経にける
  杜若咲く沢に生ふる菅の根の絶ゆとや君が見えぬこのころ
  杜若衣に摺りつけ大夫(ますらを)の着襲(きそ)ひ狩する月は来
  にけり


前衛短歌では、次のような例がある。
  燕子花つひの一花(いちげ)に風立ちてまるきり西行のうしろすがた
                     塚本邦雄
  あざやかに夜の杜若マルキ・ド・サド選集は父にうばはれしかば
                     塚本邦雄