天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー魚介(7/7)

  海人(あま)の群からすのごときなかにゐて貝を買ふなりわが恋人は

                       若山牧水

*海人さんたちがみな黒いウェット・スーツを着ていたので、鴉の群のように感じたのだ。

 

  此ごろは浅蜊浅蜊と呼ぶ声もすずしく朝の嗽(うが)ひせりけり

                       長塚 節

  巻貝の螺旋に残る紅(くれなゐ)に埋みて絶えし沈黙はある

                       河野愛子

*巻貝の外観から「埋みて絶えし沈黙」を感じ取ったのだろうが、何に沈黙したのか不明。黙り込んでしまった時に、たまたま巻貝を見ていたのか。

 

  われの危機、日本の危機とくひちがへども甘し内耳(ないじ)のごとき貝肉

                       塚本邦雄

*貝の肉を食べながら、上句のようなことを考えていたのだろう。

 

  われに応ふるわれの内部の声昧(くら)し乾(ほし)貝が水吸ひてにほへる

                       塚本邦雄

*昧し: はっきりしない、あやふや。

 

  貝煮れば小さき貝よりひとつづつ殻開きゆくさびしさありき

                       稲葉京子

*貝も生き物であることをあらためて感じさせられる。命の終焉のさびしさ。

 

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浅蜊