天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー野菜(3/3)

  村の子は、

  大きとまとを かじり居り。

  手に持ちあまる 青き その実を     釈 迢空

 

  妻の前のすべすべしたる白き皿トマトを食へば水が残りぬ

                      松村英一

  肌色の温室トマト剥きて待つ鎮咳剤の効かむ頃ほひ

                      滝沢 亘

*滝沢亘は、少年期より肺病と闘い、サナトリウムに入りながら作歌活動を続けた。薬を飲んで咳が止んでからトマトを食べようとしている。

 

  ああいまだ借りがどっさりせめてもの湯剥きトマトを昼餉の母に

                     道浦母都子

*母から借りているものがまだ沢山あるのだ。金銭も含めて母から受けた温情を感じているようだ。

 

  片手でトマトがまだつぶせるぞボンゴレ熱くつくらん

                      高瀬一誌

ボンゴレは、アサリなどの二枚貝を使ったイタリアのパスタ料理である。トマトを使ったものは、ボンゴレ・ロッソと呼ぶ。使用するパスタは、スパゲッティのようなロングパスタになる。

分かりにくいのは、上句。作者は片手の握力を気にしているのだろうか。

 

  ぷりぷりと赤きトマトを湯剥きせりおまへの心も裸にしたく

                      矢部雅之

  露地物のトマトの強き香の季節がぶり亡き人噛みあてにけり

                      田村広志

  一人あたり十円ほどの予算にてわれが得意とすキャベツのいため煮

                     中城ふみ子

  よく噛めば甘くなるものキャベツは芯のところが薫る

                      高瀬一誌

 

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トマト