天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー家・庵・宿(2/14)

  人もなき空しき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり

                 万葉集大伴旅人

*「愛しい妻のいない空しい家は草を枕にする旅にもまさって心が苦しいことだなあ。」

 

  大口の真(ま)神(かみ)の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに

                 万葉集舎人娘子

*「大口」は真神にかかる枕詞。大口の真神の原は、明日香の一帯をさす原っぱらしい。

 「真神の原に、ああ雪が降ってきた。これから先、雪が止むまで待つような家もない、そんなところで雪に降られたらたまったものではない。だから、雪よ降らないでおくれ。」

  家にありし櫃(ひつ)に鍵刺し蔵(をさ)めてし恋の奴(やつこ)のつかみかかりて

                 万葉集穂積親王

*「家にあった櫃に鍵をかけてしまっておいた恋の奴めがまたつかみかかってきて」

 

  家にてもたゆたふ命波の上に浮きてし居れば奥処(おくか)知らずも

                 万葉集・作者未詳

*「家にいてさえも定めなき我々のこの命。こうやって波の上に浮き、揺られていると、この先どうなって行くのやら、不安でならない。」

 

  雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの山片付(かたつ)きて家居せる君

                 万葉集・作者未詳

*「雪をさしおいてそれほど梅を恋いこがれなさんな。山の麓に家を構えておられるんですから。」

 

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真神の原