彫刻を詠む(2/2)
瓔珞(ようらく)の影さえうつす小面(こおもて)の冷たき冴えは胸にしみ来る
馬場あき子
*瓔珞: 珠玉を連ねた首飾りや腕輪。インドにおける装身具であった。
小面: 能面の一つ。あどけなさを残した、かれんな若い女の面。
こともなくわだつみ像が支え立つ忘れ置かれし旗竿一つ
清原日出夫
*わだつみ像: 戦没学生の悲痛な戦争体験を後の世に伝えようと彫刻家の本郷新によって制作された彫像。以下のように変遷した。
1953年12月8日に広小路キャンパスに建立された後、1969年5月20日大学紛争の最中に破壊され、1970年12月8日再建・1976年5月20日再建立を経て現在は立命館大学国際平和ミュージアムに設置され、今も立命館学園の教学理念を伝えている。(WEBから)
かつて若き民族ありて石柱に脚美しき立像彫れり
真鍋美恵子
だれか巨木に彫りし全裸の青年を巻きしめて蔦の蔓は伸びたり
春日井建
ほほゑまむとすとも叶はずこの鬼や怒れる貌を石に彫られて
安田章生
*上句から思うに、石に彫られた鬼についての説明が、近くにあるのだろうか。
木に祈る如くに鑿を向けよとぞ何方よりか聞こえて彫れり
鎌田弘子
悠久と凝(こご)れる石に鑿を打ち人彫りこみつ 人間(ひと)の想ひを
岡田恵美子