命の歌(12/17)
しばらくのいのち支へてゐる我に挽歌を聞かす夜の雨の音
君島夜詩
*君島夜(よ)詩(し)(1903―1991)は、大正-昭和時代の歌人。小泉苳三に師事し,大正11年「ポトナム」創刊に加わる。
死(しに)すればやすき生命(いのち)と友は言ふわれもしかおもふ兵は安しも
宮 柊二
夜(よ)となりていのち急(せ)くかな瀬を奔る暗き水の上(へ)樹は鳴りとよむ
前 登志夫
せめぎ合い今日に至りぬよろこばし互みのいのち残るいくばく
山田あき
山ごもるうつつかなしもその命あやふかりにし妻を伴ふ
五味保義
与へあふいのちなき夜のわれのため彫られてありしラオコーンの像
春日井 建
死ぬために命は生るる大洋の古代微笑のごときさざなみ
春日井 建
香ぐはしき一人(いちにん)の像を刻みたるひとのいのちは短かるべし
大野誠夫
病むいのち掠めしごとく一つ跳びまた一つ跳び夜のカマドウマ
滝沢 亘
*滝沢亘は、少年時より肺病と闘い、サナトリウムに入りながら作歌活動を続けた。享年41。
カマドウマ: バッタ目・カマドウマ科に分類される昆虫の一種。成虫でも翅をもたず専ら長い後脚で跳躍する。
これら一連の中で春日井建の二首はまことに詩的である。他の作品と比べて美しいが実感に乏しい。