天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

乗りもののうたー汽車、電車(5/5)

  あかあかと灯をともしたる内部見え電車入りゆく夜更の車庫に

                       島本正齋

  水色の電車夕靄に紛れんとして一斉に灯りを点す

                       大西公哉

  ねむくなりしひとが乗りこむ真夜中の電車は地下のみづうみへゆく

                       松平修文

*下句は、「ねむくなりしひと」の夢の世界を暗示する。

 

  夜の電車に運ばるるもの なかんづく空席といふ淋しきゆとり

                       安江 茂

*なかんづく: 「就中」と表記。とりわけ、殊に、特に を意味する。

 

  ひと一人限度越えしと剥ぎ取らせ朝の電車は扉閉ざしき

                       鈴木諄三

*朝の通勤電車の発車時の情景。

 

  軋(きし)む音響かせ電車まがり行く線路に火花打ち散らしつつ

                       神作光一

  降りる乗る満員電車の喧騒は祖国喪失者の存在理由(レーゾンデートル)

                       黒岩剛仁

*勤め人の生活が、なんともあわれに感じられる。

 

  平行に並ぶ電車がおたがひに夜の内部をさらしつつ行く

                     井谷まさみち

 

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電車