天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

横浜三渓園

三渓園の盆栽展

  今年の成人式の日の横浜の空は、あいにくと曇っていた。例年のごとく、三渓園に行く。京浜東北線根岸駅で電車を降りる。バスを待っていると、一月の風が手に頬に冷たい。根岸駅の方から若い女がひとり、柴犬をつれてやってきた。フード付の白いふっくらしたジャンパーを着て、鍔のついたやはり白い帽子を被っている。mister Donutの店先にくると、パイプ椅子五つが囲むテーブルの足に、犬の紐をくくりつけると店に入って行った。つれの柴犬は尾をくるりと巻き上げて女の行く方を見送っておとなしくしている。親子づれが店先にやってきて、犬を見て何か話し合うと、犬は親子づれを見上げるだけで尻尾を振ることもない。親子づれが店に入ってしばらくすると、件の若い女が店から出てきた。犬は少し尾を振った。犬の紐をテーブルの足から外し、犬をつれて立ち並ぶマンション間の道に消えて行った。
 三渓園内苑の展示では、豊臣秀吉配下の武将たちの書状が目立った。淀どのの扇子に書かれた次の和歌は、なんとも思わせぶり。

  住吉の岸による波夜るさへやゆめのかよひ路人めよくらむ

秀頼は石田三成淀殿との不倫の子ではないか、という俗説が真実味を帯びる。
園内の梅は、白梅がやっと咲き始めたばかり。下村観山が名画「弱法師」のモデルにしたという臥竜梅は、莟さえまだよく見えない。観梅の時期になると、麦茶を振舞ってくれる初音茶屋も炉を閉じて風が吹き抜けるばかり。

    ひとはかり うく香煎や 白湯の秋

これは大正4年の初秋に、ここで芥川龍之介が詠んだ俳句。


     庭石の明るく続く冬日
     白梅や水の震へる手水鉢
     月華澱畳にかかる冬日
     山茶花や青く古りたる茶筅
     梅の枝の下につがひの浮寝鳥
     腰落し糞する猫の寒さかな
     黒白の胸毛きはやか浮寝鳥
     池の辺に人目気にする石たたき


  なにかしら由緒あるらし園内のそこここにおく石のさまざま
  佇みて手帳に俳句書きつくる三渓園の藪蔭の道
  紅梅に先がけて咲く白梅の光たふとし一月の風
  観山が「弱法師」に描きし臥竜梅芥子粒ほどの莟つけたり
  胸に五円膝に七円頭に十円ほほゑむ石の出世観音
  浮寝鳥つがひの下に泳ぎ寄る白きおぼろの鯉の影見ゆ
  数十羽さざ波立てて泳ぎくるキンクロハジロ艦隊の様