天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

別れを詠む(10/10)

  どくだみの青白き花濡るる路別れて急ぐこころは花火

                    大野誠

*結句「こころは花火」の比喩が難解。別れた相手のことや話の内容などをどのように想像したらよいか。連作の一首か。

 

  声のなきさよならを言ひ硝子戸の向う忽ち身をひるがへす

                    川崎勝信

*別れを言いにきた相手の「さよなら」という声が、硝子戸のせいで作者には聞えなかったか

 あるいは顔だけ見せて身をひるがへしたか。痛切な別れの情景。

 

  別れ話を抱えて君に会いにゆくこんな日も吾は「晴れ女」なり

                    俵 万智

  房総へ花摘みにゆきそののちにつきとばさるるやうに別れき

                    大口玲子

*下句は、「花摘み」の際に起きた出来事が、作者に心理的衝撃を与えるものだったことを比喩している。

 

  眦(まなじり)の思いのほかに深かりと別れの際に丁寧に見き

                    島田幸典

*上句は、相手の決意のほどを読み取ったという表現。

 

  本借りしままに別れし幾人(いくたり)と貸したるままに別れし一人

                    後藤直

  みちのくの駅に笑顔をつくり合ふ生きて逢ふ日の訣れなるべし

                    橋本俊明

*誰しもが経験するであろう人生の悲しい真実を詠んでいる。

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どくだみの花