晩年を詠む(1/3)
晩年とは文字通り、老若に関係なくその人にとって一生の終わりに近い時期をさす。
かろうじてつらぬき得たる晩年をよろこぶわれやきみの手を執る
山田あき
*一首は、夫・坪野哲久の死に際して妻・山田あきの感情と行為を詠んだ歌と解釈したい。坪野哲久の享年は82。山田あきは6歳年上ながら96歳で亡くなった。
晩年にしくじりたりし友のため雲低き下来て香(かう)を炷(た)く
前川佐美雄
さきがけてゐるとは露も思はざりし遊び暮らしてすでに晩年
前川佐美雄
よれよれのわが晩年のとある日の朝餉に割れる卵黄の艶
濱口忍翁
「晩年」は美しいものぞ、皺だらけのレンブラントが笑(え)む、
生鰯(サージン)噛り・・・・。 赤木健介
*レンブラント: 若くして肖像画家として成功し、晩年には私生活における度重なる不幸と浪費癖による財政的苦難に喘いだ。享年63。 ただ下句のような情景は見たことがない。
絶望に生きしアントン・チェホフの晩年をおもふ胡桃割りつつ
大野誠夫
*アントン・チェホフは、肺結核で44歳の生涯を終えた。