天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー目(1/9)

 目(眼)は、光を受容する感覚器。中枢神経系の働きによって視覚が生じる。目には多数の意味が伴う。目つき、視力、注目、洞察力、外観、体験(つらい目にあう など)、すき間や凹凸、順序(xx番目など)、性質や傾向 等々。

 なお「まなこ」は「目 (ま) の子」の意味。

 

  青旗(あをはた)の木幡(こはた)の上をかよふとは目には見れども直(ただ)に

  逢はぬかも            万葉集・倭姫皇后

*「青旗の」は、「木旗」に懸る枕詞。

「青々と繁った木々の上を大君の魂が通うと目には見えるのに、現実にはお逢いできないことです。」

 

  目には見て手には取らえぬ月の内の楓(かつら)のごとき妹をいかにせむ

                     万葉集湯原王

*「目には見えるけれど手には取れない月の中の楓のようなあなたをどうすればいいのか。」

 

  一二(ひとふた)の目のみにあらず五六(いつつむつ)三四(みつよつ)さへあり

  双六(すごろく)の采(さえ)     万葉集・長忌寸意吉麿

*采(さえ): サイコロのこと。

「一、二の目だけではなく五、六、三、四の目さえもあるよ。双六の采」

 

  雲隠る小島の神のかしこけば目こそ隔てれ心隔てや

                 万葉集柿本人麻呂歌集

*「雲に隠れた恐ろしい小島の神におののいて、逢えないことがあろうとも、心離れることはない。」

 

  来む世にもはやなりななむ目の前につれなき人を昔と思はむ

                  古今集・よみ人しらず

*「もう早く来世になってしまってほしい、そうすれば今こうして思っている冷たい人も、昔のものと思うことができるのに。」

 

  秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる

                    古今集藤原敏行

  おもへども身をしわけねばめに見えぬ心をきみにたぐへてぞやる

                    古今集・伊香淳行

*「一緒に行きたいとは思うけれども、この身を二つに分けるわけにもいかないので、「目に見えぬ心」をあなたと一緒に付き添わせましょう。」

 

  世の中はかくこそ変りけれ吹くかぜのめにみぬ人もこひしかりけり

                     古今集・紀躬之

*「人の世とは、かくも不思議なものですね。吹く風のように目に見えない人を恋しいと思うのだから。」

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双六