天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー目(7/9)

  おとろふる眼(まなこ)をとぢて佇つ樹(こ)したさくらは燃ゆるほのほのおとす

                       上田三四二

*下句の桜が燃える炎の音が聞こえる、とはなんとも独特!

 

  なほ言へとうながす眼(まなこ)にむかひあふ二つプランを言ひ終へしいま

                         篠 弘

  焼却炉にとろり溶けしはわれの目かこの先何も見えざるはよし

                        西潟弘子

*焼却炉に入れたのは魚だったのだろう。

 

  疲れたるまなこに指を当ておれば骨となる日の眼窩のかたち

                        稲垣道子

  工事場の穴の深みを覗きこむときの眼は眼(まなこ)らしくあり

                        今井恵子

  どのまなこもいきものらのまなこはまんまるで焚かれる牛の背中を見守る

                        佐藤信

*焚かれる牛を見守っているのは、人間とほかの動物たちのようだ。

 

  言葉持たぬ日のふたり子は黒き眼にただひるがえる海を吸いたり

                        佐伯裕子

  オカリナはまなこを閉ぢて聞くものかひたひた満つるわが涙壺

                        中野冴子

*オカリナ(ocarina)という名称は、イタリア語で「小さなガチョウ」を意味する。日本では、涙滴状のオカリナが一般的。

f:id:amanokakeru:20210907004218j:plain

オカリナ