身体の部分を詠むー目(9/9)
眼にきけば辛いとまばたくいちにんを今日は起立(たた)せず励まさず抱く
望月綾子
*上句は相手の眼をじっと見つめていたが、何も答えず眼を瞬くばかりだった、状況をさす。
目薬のしづくをふかくたたへたる近江(あふみ)遠江(とほたふみ)ふたつのまなこ
小池 光
見えぬ目は開くも閉づるも暗黒にあらず空白まつしろの白
日比野義弘
ノートル・ダムの椅子に座りてわれだけを見てゐたおまへ
小さきまなこよ 日置俊次
目を凝らし見据えておれば眼球のやがて溶解してゆくこころ
今井千草
レーザーの光を浴ぶる眼球の狂ほし極彩色の奔りて
春日真木子
*白内障かの手術の時の経験だろう。
飛翔せむおもひのいまだ残るらしわれの眼にある翼の欠片
一対の切子グラスの輝きを目は楽しみて買わずに帰る
武市房子
*切子グラス: カットグラス( 立方体のそれぞれの角を切り落とした形。)