天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー魚類(2/7)

鯉   23首

  青澱む水面に映る雲の下白銀の鯉静もりゐたり

  右目病む白銀の鯉蹌踉と濁れる川に死にゆくらしも

  飛び石を伝ひ来れば大いなる緋鯉片目にわれを見上ぐる

  蓮の葉にむすびてまろぶ朝露を口開きて待つ池の鯉かも

  黒々と鯉つらなりてあぎとへり下水処理場放水の門

  折れ伏せる青草に寄る色鯉の濁れる水を媼らと見き

  あらたまの川に遊べる緋の鯉のそばに流れ来ひとつ蜜柑は

  上流は大刀洗川ことさらに緋鯉目につくこの滑川

  寒鯉のひそめる池に波たてり筧を伝ふ谷戸の遣り水

  生ひ出づる蓮の若葉の泥池に鯉の尾鰭が揺れて波立つ

  ゆふらりと池に緋鯉の浮く見れば胎児のいのち思はるるかも

  川縁に棲みて魚釣るホームレス鈴高鳴れば鯉かかるらし

  英霊に捧げられたる錦鯉神池に群れて餌を取り合ふ

  浮かびきて水面の落葉吸ひ込めるおほき緋鯉のまなこ濡れたり

  睡蓮の池の水面に波立てて緋鯉真鯉の背びれゆきかふ

  相模川にごれる水に糸垂れて鯉のかかるを待ちにけるかも

  川中の鯉にも声はとどくらし鵙の鋭声に突如向き変ふ

  小雨降る朝の蓮(はす)池棲(す)む鯉(こい)は赤銅(しゃくどう)色の腹かへしたり

  風もなく蓮の揺るるは池に棲む鯉か草魚か藻を食める時

  伸び上がり岩の苔食む白き鯉清き流れの太刀洗

  紅葉を映せる池の底ひにはま白き鯉の沈みあぎとふ

  河骨の花咲くところ鯉どもの背のあらはなる産卵射精

  古民家のかまどの煙もれ出でて空にゆらめく大鯉のぼり

 

烏賊   14首

  青白き命の灯なり蛍烏賊(ほたるいか)あまた灯りて網に滴る

  久方の光の浜に購ひし鰺の干物と烏賊の塩辛

  青白き灯の滴りの螢烏賊あまたの命網に掛かれる

  螢烏賊子を孕みたる塩辛の柚子香りたつ冷酒の盃

  初島の生簀の中の烏賊の群螢光点し泳ぎけるかも

  食堂の生簀に数尾活け烏賊が青き明かりを点して泳ぐ

  水鳥の羽根なよなよとしなひたる疑似餌の烏賊のなまめき光る

  のし烏賊にお好み焼に蛸焼にタオル竹籠唐辛子売る

  水中に内臓透けるアオリイカはかなく振れるうすものの鰭

  朝東北風(あさならひ)夕南風(ゆふみなみ)吹く通り矢に白き帆張りし

  烏賊(いか)漁の船

  影うすく生簀に泳ぐアオリイカ片瀬漁港に買ひ手を待てり

  葬式の帰りは「のぞみ」グリーン車に「獺祭」を呑みチーズ烏賊食む 

  マイクもち「イガーイガイガ」おばさんは釣れたばかりの烏賊売りにゆく

  ご飯だけあると言つたらその家はおかずにくれた烏賊の塩辛

 

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螢烏賊