わが句集からー春(5/21)
平成九年
左義長や海に退く真の闇
平成の世に打初めの刀鍛冶
初漁や鴎伴ひ入港す
千年の樹に鶯の啼きにけり
鎌倉は路地多きかな沈丁花
白酒に正座の少しくづれけり
蕗の薹小さき指に摘まれけり
頂を白き雨くる紀元節
あきらめて下山を急ぐ春時雨
火渡りの呪文法螺貝山笑ふ
寛文の頃の谷戸田やいぬふぐり
うづ潮にもまれて春の観光船
宿に食ぶ鳴門の渦の桜鯛
枝垂るるや支柱五本の老桜
晴天の続きて野梅真つ盛り
春暁の空をつぶての黒き鳥
利休忌の出向辞令に立尽くす
妄念のゆきどころなし春の闇
花冷えの門を出でゆく離任かな
春あけぼの定家の選に入りし夢
仇討の刀身の反り冴返る
天守閣屋根をころがり鳥交る
深吉野や雲に連なる花の山
行く春や夢鮫揚がる戸田の沖
大凧を田に休ませて昼餉時
親子二代同じ先生春の山
辻講釈蝶つづれあふ谷戸の空
息つきて挨拶交はす山薊