天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

言葉が担うもの

 飴山実全集の内の「辛酉小雪」を読み終えた。一九三句を納める。この前の「小長集」に比べると読み応えがある。著者は、ことばのめりはり、趣向の見定め、俳興の運び、について気付く所があった、とあとがきに書く。

        町なかは薮も厨も雪解水

 この構造・調子は芭蕉や蕪村の作品にもみられるので、新しくはない。


        花杏汽車を山から吐きにけり
        古桜雀を吸うて吐きにけり
        塩壺の吐きし我鬼忌の蚊なりけり
        吹かれては山女を散す葛のひげ

 擬人法であり、手法としてはどうということはないが、魅力あり。


        朝桜杜氏は子待つ山へ去る
        鮠釣つて西で日すごす花の下
        めんどりにして蟷螂をふりまはす

 いずれも物語的な要素を含む。そのよってきたる言葉は?といえば、それぞれ「山へ去る」「西」「めんどり」にある。それぞれが担う感性・歴史・常識が句の中で他の言葉と化学反応を起こす。


        届きけり霰ちる日の蕪寿し

 初句に切れ字「けり」を使っている点が目新しい。


        をさなさを馳走に寒の蜆汁

 「をさなさ」の主語は? 寒の蜆である。だが、寒の蜆は、太っていて大きいのではないか? 作者の食べた蜆は、小さかったのであろう。