天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

児玉と山県

江ノ島から大山を望む

 大正十年に建立された江ノ島児玉神社の入口に、古い石碑があり歌が刻まれている。
     児玉藤園のなくなりける日、
     つく杖の折れければ
  越えばまた里やあらんと頼みてし
  杖さえ折れぬ
  老いの坂道
             有朋

 これは老境にさしかかった山県有朋が、次代を託していた児玉源太郎に先立たれた悲運を詠んだ歌である。
藤園は児玉の雅号である。明治の軍人は、漢詩を含む歌の素養があった。死を前提にした職業にある人々は詩を詠むことで心の平静を保つことができるのであろう。

        しあはせの色展(ひろ)げたり石蕗の花
        断崖に棲むしあはせも石蕗の花
        大山の空の鬱濃き冬の雲

  黄葉を愛でしすぎゆき境内に大きくなれば樹は伐られたり
  鬱然とみどり保てる大木の木末(こぬれ)をわたる羽ばたきの影
  凝然と釣人立てる岩礁をなだれおちたる冬の満ち潮
  絮つけし尾花の群るる断崖に遠くかすめる大山の嶺
  護摩行の煤にくろずむ天井にかかる提灯あまたくろず