天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

言葉の斡旋

 勢いにのって飴山実最期の第五句集「花浴び」を読み終えた。うまいなあ、いいなあと感じた句の一部をあげる。

      A 火の山の懐ふかき初湯かな
      B 水の香をしるべにしたりあやめ宿
      C かなかなのどこかで地獄草紙かな
      D 火の雫こぼす松ある野焼かな
      E この山にウヰスキー熟れ椎若葉
      F 一山を洗ひだしたる夕立かな

A: 火の山とは、阿蘇山のことだが、火の山、懐ふかき、初湯
   と言葉の斡旋が実にうまい。大景のなかの湯にゆったり
   抱かれる新年の気分が読者を包む。
B: 瑞々しく奥床しい。これも言葉の斡旋の工夫につきる。
   水の香、しるべ、あやめ宿。日本語の美しさが遺憾なく
   発揮されている。
C: 地獄草紙は、仏教の経典に説かれた地獄の種々相を描いた絵巻
   のこと。ひぐらしの声を聞いていると、どこかで地獄絵巻の世界
   に繋がるような淋しい裏に狂おしさを感じる。
D: 秋吉台での野焼きの光景である。松の枝葉が焼けて火の雫が
   したたっているごとくなのだ。実に鮮やかなイメージが
   顕ってくる。
E: 椎若葉の山にウヰスキーが熟成しているのだ。これ以上どんな
   言葉も蛇足だろう。
F: 「洗ひだしたる」という直裁な措辞で、夕立に洗われた山の姿が
   すっきりと立ち上がった。


 この句集にも食材の佳句が多いことを付言しておく。