句またがり、句割れ
短歌において句という場合は、音韻上の五音、七音のまとまりを指す。どことなく曖昧だった句またがりや句割れという現象を、小池光が初めて厳密に定義している。例歌はいずれも塚本邦雄の作品。『小池 光歌集』(現代短歌文庫)から要約しておく。
「句またがり」の定義: 文節のおわりと句の切れ目が合致しない時、
これを「句またがり」という。
硝子屑硝子に還る火の中にひとしづくストラヴィンスキーの血
ひとしづくストラ/ヴィンスキーの血 と、文節の中央で句が切断されている。
「句割れ」の定義: 句のおわりでないところで、文が終結している
のを「句割れ」という。
革命来ることなし町は旱天にならべてさかしまに売る箒
花伝書のをはりの花の褐色にひらき脚もていだかるるチェロ
ことなし*町は と ひらき+脚もて というように、*や+のところで文が終結する感じである。
「副句」の定義: 二句をまたいで、五音ないし七音から成る意味上
密接なひとまとまりが形成されている場合、
これを「副句」という。
さるすべり咲く残暑の日ばうばうと髪強ばり
5 7
さるすべり咲く残暑の日ばうばうと
7 5
上の数字が句分けによる読み、つまり「主句」であり、下が隠されている句、「副句」である。上のリズムで読みながら、わたしたちの心理は、同時に、下側のリズムを無意識のうちに感受するのである。そして両者による干渉が、屈折した、どこかすなおでない印象としてのこされることになる。
・・・・・陰翳に豊んだ、独特のふくらみのあるリズム感が生じてくる。
枯れ枝にひとつ懸かれり色あせてしぼみかけたる赤き風船
梢みな天をさしたり冬の木々