天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

現代の定家(6)

 題詠とは、予め与えられた題によって歌を詠むことであり、古今和歌集以後特に凝ったものになり、歌合や屏風歌が盛んになるにつれ歌の本筋のように扱われた。新古今和歌集の戀の部について見てもまことに複雑な題が設定されている。「初恋」「忍恋」「聞恋」「見恋」「旅恋」「寄月恋」「寄雲恋」「寄席恋」「寄遊女恋」「寄商人恋」「寄絵恋」「寄衣恋」「寄遊女恋」「寄傀儡恋」「寄海人恋」「寄樵人恋」など、異様なほどである。ところで、現代の題詠はどんな形態に進化しているであろうか。
歌会などでは、定義どおりの題詠が行われているが、個人が自分で設定した題もある。その極端な例として、塚本邦雄の「山川呉服店」をあげることができよう。1986年から2001年の長期間に及ぶ。
  いふほどもなき夕映にあしひきの山川呉服店かがやきつ        
  山川呉服店破産してあかねさす畫や縹の帯の投売り          
  山川(やまがは)のたぎち終れるひとところ流雛(ながしびな)
  かたまりて死にをる        
  あさもよし紀州新報第五面山川呉服店主密葬             
  玉藻よし讃岐に生を畢りける山川呉服店主魚意居士          
  青嵐ばさと商店街地図に山川呉服店消し去らる            
  山川呉服店未亡人ほろびずて生甲斐の草木染(くさきぞめ)教室           
  塋域に白雨 山川呉服店累代の墓碑何ぞしたたる           
  山川呉服店三代目洋風に「料理店マヤ」などと墨書す         
  山川呉服店先代の石碑(いしぶみ)にしがみつく珈琲色のうつせみ