龍恋の鐘
これまで「現代の定家」と題して、度々塚本邦雄の作品について触れてきたが、実は「短歌人」の評論賞に応募するための調査ノートから抜き出したものであった。テーマは、「私にとっての塚本邦雄」である。今朝藤沢中央郵便局に寄って原稿を託した。賞を期待しているわけではないが、こうした機会をとらえて、日ごろ考え調べたことをまとめているつもりである。
寝不足なので遠出はやめて、江ノ島にあそぶ。帰ってからは、まだ午後二時だが、「逢(あい)初(ぞめ)」という芋焼酎をオンザロックに、海老シュウマイをつまみつつ、テレビを見ながら、キーボードをたたいている。
裾あをむ白装束の富士の峰突然変異のごとく聳ゆる
春きたるさがみの空に端坐せり白装束の富士のお山は
龍恋の鐘の鉄柵耐へ忍ぶあまた吊るせる鍵のおもみに
金網のあれば鍵吊るならはしのあちこちにある恋人の丘
花うちて椿の森をとびだせる目白の胸は黄緑の色
また会へる春をことほぎうち鳴らす音かん高き龍恋の鐘
磯釣りの釣果はいかに身をかがめイソヒヨドリは岩場を翔る
マネキンの首を据ゑたる植木鉢釣具の店の裏口を守る
植木鉢に首をさらせるマネキンはスキンヘッドにタオルをのせて
「逢初」とふ芋焼酎をくみにつつ下がる株価を妻と言ひ合ふ
春風や白装束の旧火山
奥津宮鏡くもりて春うらら
釣人に春の潮の盛り上がる
龍恋の鐘うつふたり雪中花
笹啼の声のかたさや石の階
鳶眼下灯台ゆらす春の風
春風やわが身の揺るる展望台
死に場所はいづこにあるや春の鳶