天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

文語と口語のミックス短歌

 角川「短歌」九月号で、「短歌における口語体と文語体」という特集を掲載している。自分の都合のいいように大雑把にメモしておく。


A.口語歌
  生れは甲州鶯宿峠に立っているなんじゃもんじゃの股からですよ
                          山崎放代
  飲みかけのジンジャエールと書きかけの詩を残したまま
   そっと立ち去れ                加藤千恵


B.ミックス短歌
  戦争のたのしみはわれらの知らぬこと春のまひるを眠りつづける
                          前川佐美雄
  春の夜の夢ばかりなる枕頭にあっあかねさす召集令状
                          塚本邦雄
  中国に兵なりし日の五ヵ年をしみじみ思ふ戦争は悪だ
                          宮 柊二
  植木屋はわれを頼めて来ぬ男ぼうたん植ゑにまだまだ来ない
                          馬場あき子
  旅なんて死んでからでも行けるなり鯖街道に赤い月出る
                          吉川宏志
  (裏切りと呼んでいいのか?)あづさゆみ春あでやかに君が
  壊れる                     高島 裕

  ペパーミントのガムをかみつつ若者がセックスというときの
  はやくち                    村木道彦

  五線紙にのりさうだなと聞いてゐる遠い電話に弾むきみの声
                          小野茂
  オナモミもオオオナモミも寂しからん くつつきたくて
  とげとげになる                 松尾祥子

  切り落とすように受話器をおろしたり やさしくなんかないよ
  わたしは                    江戸 雪
  
C.ミックス短歌の効果
  ①口語体に文語を入れるモチーフは、使い慣れた日常語だけでは、
   自分の感情がうまく表現できないということにある。われわれの
   意識の底には文語の経験があるのだ。
   異質な言葉を放り込んでみる。口語脈であれば、文語が異質な
   要素になる。文語脈であれば、口語が異質なものだ。
                          加藤治郎

  ②ことばの音やニュアンスが意味以上のものを物語るーーー
   文語文体の中に挟みこまれる口語には、一首の中の時代や
   場所をなまなましく浮き上がらせ、さらりと批評する力が
   あるようだ。
                          日高尭子

  ③一部に口語=しゃべり言葉が使われることによって、リアルな
   人間が感じられる。
                          吉川宏志

  ④口語体の導入は、短歌の私性の問題と直結している。口語表現が
   作中主体のキャラクターを非常に強く拘束する力を持っている。
                          奥村亡羊