死を詠む(11)
なんにしてもあなたを置いて死ぬわけにいかないと言う
塵取りを持ちて 永田和宏
ポケットに手を引き入れて歩みいつ嫌なのだ君が先に死ぬなど
永田和宏
朝と夜をわれら違えてあまつさえ死の前日に死は知らさるる
永田和宏
君が死の朝明けて来ぬああわれは君が死へいま溯りいつ
永田和宏
人の死はいつも人の死 いつの日ぞ人の死としてわが悲しまる
永田和宏
死ぬことを考えながら人は死ぬ茄子の花咲くしずかな日照り
吉川宏志
卵の中にかくれてゐると、俺達は死ぬぞ、と叫ぶ声がした秋
山田富士郎
遺書書きて死ぬとふ作法なぜ守るひらがな多きこころ遺して
川野里子
永田和宏に死の歌が多くなるのは、夫人であった河野裕子さんの逝去が契機になっている。歌人の夫婦としても有名であり、お互いのことを詠んだ相聞歌も多い。それぞれの歌の内容は、注釈を要しないほど明快。吉川宏志の思いは、多くの人に共通のものであろう。山田富士郎の歌では、「卵の中にかくれてゐる」が何を比喩しているかが問題。川野里子の作品では、下句に思いが込められている。