八幡宮の大銀杏
できすぎた道行きになってしまったが、時雨の中、岩波文庫の『金槐和歌集』を携えて鶴ヶ丘八幡宮の大銀杏を見にいった。もちろん、黄葉を期待してである。雨空の下ながら、見ごたえがあった。言うまでもあるまいが、実朝はこの大銀杏の蔭に潜んでいた甥の公暁に、雪の日に殺された。俳句で春の季語になっている実朝忌は、陰暦の1月27日である。
しぐるるや小町通りに買ふ煎餅
もみづるや水面も赤き平氏池
雨粒の波紋にゆるる紅葉影
しぐるるや巫女の袴のしたはしき
甘噛みの鴉なくなり大銀杏
舞殿に挙式の祝詞大銀杏
そこここに傘さしかくる冬牡丹
餅つくや八幡宮の幼稚園
餅つくや甑の湯気が次を待つ
鎌倉に紅葉の闇のありにけり
寿福寺やもみぢ下照る墓地の道
山百合や政子実朝母子の墓
降るほどに紅葉燃え立つ山路かな
松籟にまぎれて遠く鹿脅
しぐれ降る源氏ヶ池の中島にからだ膨らむ水鳥の群
合格のお礼記せる絵馬みれば涙ぐましも宮の軒下
神殿の入口に見ゆ神主の白き鼻緒の黒き木履は
『金槐和歌集』を持っていったのは、「道のうた」の評論を書くに当たって、実朝の歌をレビューするためである。やはり次の一首につきる。
箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に波の寄るみゆ