「短歌研究」新年号から(1)
作品連載第五回というシリーズで、藤原龍一郎、尾崎まゆみ、加藤治郎の三人が三十首ずつ作品を寄せている。新年号とあってか、いずれも力作に見えるのだが。今日は、加藤治郎の作品「雨の日の回顧展」について。三十首全体で何を訴えようとしているのか、まだ理解できていないが、蟻の歌が飛び飛びに出てくる。そこだけを拾ってみよう。
てのひらに一粒ふたつぶ現れて蟻は温かいジャムになった
ひとつ残らず奪いなさいときみは言うピアスホールに顔をだす蟻
一行の詩をのぼりゆく蟻がいてぼくはあなたを壊したくなる
ある日あなたは罵詈雑言を送りつけ蟻の上に蟻蟻の上に蟻
放尿の小さな河に流される蟻を見て居り少女の後ろに
趣味の悪い五番目の歌以外はシュールなイメージを喚起するが、「雨の日の回顧展」という題名とどう結びつくのか? 蟻は何の暗喩なのか? 読者がここのところを一瞬にして感受できないと面白くない。一首独立して見たらさらにつまらない。