天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

梔子の花

くちなしの花

 梔子(くちなし)はアカネ科の常緑低木で、多くの園芸品種がある。その名前の由来は、実が熟しても口を開かないところにあるという。その実から採った黄色の色素は、古くから染料として使われた。梔子色である。食品染料にもなる。俳句では、夏の季語。



      口なしの花さくかたや日にうとき    蕪村
      口なしの花はや文の褪せるごと   中村草田男


蕪村の句の意味: 香りばかりで、花の姿はいずこと問えば、日陰の地にひっそりと咲いている(『蕪村全句集』による)。


  やまぶきの花色衣ぬしやたれ問へど答へずくちなしにして
                      古今集・素性
  野の末を移住民など行くごときくちなし色の寒き冬の日 
                      佐佐木信綱
  たましひのよろこびのごと宵闇の庭にくちなしの花暮れのこる
                      上田三四二

 なお、この花を決して病気見舞いに持っていってはならない。「死人にくちなし」ということになるからである。


  少女から女に変はる時の間をかなしく匂ふくちなしの花