潜水艦
横須賀は1877年に海軍港に指定された。その十二年前に、江戸幕府が小栗上野介に命じて洋式造船所を作らせている。太平洋戦争後の横須賀には、駐留軍の兵士と腕を組んで歩く日本の女、けだるいジャズにバーボン、タバコの臭いにむせぶ町という荒んだイメージが定着した。現在は米海軍と自衛隊の基地や防衛大学校がある。時折、米軍兵士と日本の少女たちの間でトラブルが起きる。
灰色の戦艦五隻梅雨の海
横須賀や薔薇の向ふに潜水艦
二隻ならぶ梅雨軍港の潜水艦
エイがくる梅雨軍港の海面を
「鎮遠」の砲弾ふたつ梅雨の中
兵士らの迷彩服の動く見ゆ横須賀総監本部の庭に
薔薇の名はフィリップ・ノワレ 名優(わざをぎ)の若き日を
見るヴェルニー公園
シスターの帽子を想ふ薔薇の名は修道院のアベイ・ドゥ・
クリュニー
それぞれの船首に翻(かへ)る旭日旗戦艦五隻のにぶき灰色
四、五人の白き下士官立てる見ゆ黒き潜水艦のデッキに
年ふりて濁れる水に同化せりエイが泳げる梅雨の軍港
きかざれば友の少女を刺しにけり米軍兵士十九歳は
Z旗を今日も掲ぐる記念艦「みかさ」をめぐる老人の群
ものの役に立たざりしかば展示さる戦艦大和型の砲弾
日の本の海ふところに戦ひて御稜威(みいつ)示せり東郷元帥
動く島と見まがうばかりタンカーの梅雨にけぶれる猿島の沖
フェロモンの匂ひはなてる少女らの性を危ぶむ横須賀の街