音を詠む(2/6)
和歌短歌に詠まれる音は、自然が発生するものが多い。雨、風、滝、川、鳥獣 等々。
人も自然に取り巻かれて生きているので当然のこと。時代が進むにつれて比喩的、象徴的な意味で詠まれることも多くなった。
越えわぶる逢坂よりも音に聞くなこそをかたき関と知らなむ
*なこそ: 勿来関(なこそのせき)を指す。古代から歌枕となっている関所のひとつ。所在地は不明。
音もせでおもひにもゆる蛍こそなく虫よりもあはれなりけれ
後拾遺集・源 重之
大井河ちるもみぢ葉にうづもれてとなせの滝は音のみぞする
金葉集・大中臣公長
*となせ: 戸無瀬。京都市右京区、嵐山の付近の地名。「戸無瀬の滝」や「戸無瀬川(大堰川)」は歌枕として有名。
河霧のたちこめつれば高瀬舟わけゆくさをのおとのみぞする
金葉集・藤原行家
*高瀬舟: 川船の一種。古代から中世にかけては小形で底が深く、近世になって大形で底が平たく浅くなった。(辞典から)
高砂の尾上の松にふく風のおとにのみやは聞きわたるべき
千載集・藤原顕輔
この歌は恋の歌として詠まれた。
「高砂の尾上の松を吹く風の音は、ひときわ高く、心にしみるそうだ。それではないが、ずっと音に――噂にばかり聞いて過ごさなければならないのだろうか、貴女のことを。」
岩そそぐ水よりほかに音せねば心ひとつにすましてぞ聞く
千載集・守覚法親王
恋ひわぶと聞きにだに聞け鐘の音にうち忘らるる時の間ぞなき