New Taste(2)
阿久 悠は歌謡曲の作詞において、いろいろな様式を開拓し、多数のヒット曲を生み出した。たびたび日本作詞大賞にかがやいた。New Taste が高く評価されたのだ。定型の短歌の世界で、New Taste を生んだ技法を、以下に例示して見よう。
■枕詞、序詞
ささなみの志賀の辛崎幸くあれど大宮人の船待ちかねつ
柿本人麻呂
あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかもねむ
柿本人麻呂
■五七調、七五調
桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る
万葉集
年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけりさやの中山
西行
■寄物陳思、正述心緒
遠山に霞たなびきいや遠に妹が目見ずてわれ恋ひにけり
万葉集
かくばかり恋ひむものそと知らませば遠く見るべくありけるものを
万葉集
■感嘆詞「かも」「けるかも」
振り仰けて若月見れば一目見し人の眉引き念ほゆるかも
大伴家持
石激る垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも
志貴皇子
■口語、文語と口語のミックス
「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言って
しまっていいの 俵 万智
たんぽぽの黄をきざみたるごとき陽よときにばからしくなる
人生は 村木道彦
■句割れ、句跨り
革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ
塚本邦雄
愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないの
と思う 俵 万智
■漢字とルビ
わが幼時、百葉箱(ふしぎなはこ)がひつそりと夕日を
浴びて立つてゐました 高野公彦
百年先の日本想ひて眠るにも重きかなわが頭蓋骨
( オツサ・クラニー) 塚本邦雄
■本歌取り、パロディ
ひとり寝る山鳥の尾のしだり尾に霜置きまよふ床の月影
藤原定家
(柿本人麻呂の短歌「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の・・・」)
雉食へばましてしのばゆ再た娶りあかあかと冬も半裸のピカソ
塚本邦雄
(山上憶良の長歌「瓜食めば子ども思はゆ栗食めばまして
偲はゆ・・・」)
実際には、もっと微に入り細をうがつ理論が構築できる。それはさておき、New Tasteの短歌を作るには、言葉のあたらしい使い方を工夫することが必要なのだ。