天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

花菖蒲(1)

小田原城にて

 アヤメ科の多年草で、アヤメやカキツバタとは剣状葉の中脈が大きく隆起するところが違う。


  花菖蒲かたき蕾は粉しろしはつはつ見ゆる
  濃むらさきはも       木下利玄
                      
  濃艶に咲きて日に照る花菖蒲風ふき
  くれば紫に揺る       大岡 博
                       

 6月1日から30日まで、小田原城にて花菖蒲まつりが開催される。小雨のふる肌寒い朝に出かけた。神奈川県下には、町田市、横須賀市鎌倉市などに有名な菖蒲園があり、ここはさほどのものでない。だが、城と取り合わせると奥ゆかしさがでる。それで花菖蒲まつりになる。ただ、この日は花が十分に咲いていなかったので鑑賞には時期尚早であった。


      石垣をまたげる楠の若葉かな
      青き目がアイリスといふ花菖蒲
      小田原城朝の小雨の花菖蒲
      門出でて朱塗の橋や花菖蒲


  根をはりて石垣越ゆるクスノキの記憶思へり落城の時
  小雨ふる朝の蓮池棲む鯉は赤銅色(あかがねいろ)の腹
  かへしたり


  さみだれの報徳神社に巫女が舞ふ抱く赤子にさきはひあれと
  この濠に命落とししつはもののいにしへ思ふ小暗き木立
  周りには花咲きたれどこの菖蒲まだ莟なる「葦の浮舟」
  たたなづく山の肌へに雲湧きて白く明らむ山の上の空

  
 [余談]短歌人・横浜歌会で、 
       小雨ふる朝の蓮池棲む鯉は赤銅色の腹かへしたり
     を詠草として出したところ、上句の道具立てが多いので、
     下句が活きてこない、との批評になった。そうでない作り
     にしたつもりなのだが。つまり、二句の「蓮池」で切り、
     三句以下を生き生きとした韻律にした。こうすれば、上句
     が背景に退き、下句に焦点が集まるはず。でもそれが通じ
     なかった。