天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

にわとり(続)

熱田神宮境内にて

 6月29日のところで「にわとり」に関する枕詞についてふれたが、車中で茂吉の『あらたま』を読んでいたら、枕詞の効果を示すよい例が出ていたので以下に紹介しておく。


  君の骨箱にはひりて鳥がなく東のくにに
  埋められにけり


これは、大正6年・節忌の項の中に入っている。君とは長塚節のこと。東(あづま)にかかる「鳥がなく」という枕詞がなんともいえない懐かしい情緒を感じさせる。長塚節の郷里は茨城県国生村、すなわち、東国である。彼の短歌では、次の作品が教科書に載るほどよく知られている。


  馬追虫(うまおひ)の髭のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて
  想ひ見るべし
  白埴(しらはに)の瓶こそよけれ霧ながら朝はつめたき水
  くみにけり


なお、茂吉の歌集のあれこれを読んでいて気付くのは、子規忌、左千夫忌、節忌といった先輩の忌日に、茂吉たちアララギのメンバーが集まって歌会を続けていたことである。時代における人間関係がわかるような気がする。