天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

濁流

相模川河口

 東海、関東、東北とここ数日間に集中豪雨に襲われた。嵐ではなく、雨と雷の被害が出た。季語では、秋出水がある程度で、豪雨についての季語は豊富でない。熱帯雨林の減少、炭酸ガスによる地球温暖化現象などで、これからの気象は今までと違って様変わりするはず。新たな季語を作る必要があろう。あるいは季節に関係なく異状気象が発生して、季語を無意味にすることもあり得よう。


      くちなはも流れ着くなり秋出水     中村苑子
      光つつ仏壇沈む秋出水         東條素香


  水やなほ増すやいなやと軒の戸に目印しつつ胸安からず
                         伊藤左千夫
  濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は泥土か夜明けか知らぬ
                         斉藤 史
  杉谷を押し流したるみ吉野の豪雨の山路蒼く照る石
                         窪田章一郎
  秋出水しづかにつよくぶちあたる角すぎてよりひとりのおもい
                         玉井清弘


 斉藤 史の歌は、歌集『魚歌』にある昭和十一年の作品で、2.26事件に際して詠んだもの。戦争になだれ込んでゆく切迫した世相を暗喩している。
 集中豪雨の影響が河にどう現れているかを見に、相模川河口に行った。


  西つ方平家討たむともののふが馬乗り入れし川とこそ聞け
  大いなる河口なりけりゆるやかに昨夜の豪雨を容れてにごれる
  ちぎれたる小枝かかれる釣糸を引き上げたれば光る小魚
  空晴れてゆたにたゆたに流れくる広き河口のゴミの一群
  濁流の岸辺に鷺のあそぶ見ゆ豪雨のすぎて晴れたる河口
  濁流を押し返しつつ満潮が泡立ち寄する河口なりけり
  砂浜にうちあげられし空缶の帯が光れり雨晴れし陽に
  草はらをわが踏みゆけばキチキチと飛蝗(ばつた)とび立つ
  いらだつごとし


  一匹の重さを競ふ釣舟の釣果いかにと港にぎはふ
  午前の部釣大会が終はりたりやまかけ鮪丼を食ふ