天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

ちょっと気になって

「俳壇」11月号

 通勤電車の中で、読みそびれていた「俳壇」十一月号をめくっていたら、津川絵里子という人のリレー競詠33句に惹かれた。新鮮さを感じたのと少し疑問を感じたのと両面あり。

    A 涼風や直感で入る喫茶店
    B 十薬のこの正直なにほひかな
    C 品書になき鮒鮓を出して来し
    D すこしづつ皮余らせて大蛇老ゆ
    E 義仲寺を行つたり来たり秋扇


Aでは「直感で入る」、Bでは「この正直な」という措辞が新鮮。Cは馴染みの料理店のカウンターに坐って主と話しながら注文している景が浮ぶ。ただ、こうした句には既視感あり。Dは動物園でみかけた情景か、面白い。Eの解釈だが、助詞「を」がくせもの。多分、義仲寺の中を行ったり来たりしているのであろうが、義仲寺と別の場所とを行ったり来たりしているようにも読める。ただ、その場合は、助詞「と」を使うはずなので、まあ誤解はないだろう。
 この号では、作家論として遠藤若狭男をとりあげているが、よくわかって参考になる。若狭男の次のような句に惹かれた。


      白地着てわが胸の辺の翳りかな
      凍鶴となるをいとひし一声か 
      沈丁や恋にあらざる胸さわぎ
      初鶏の次の声待つ山河かな
      美しき世を待つごとく繭ごもる
      こは死後の景にあらずや蛍狩