水仙
ヒガンバナ科の多年草で日本水仙が一般的。地中海沿岸が原産で、わが国には平安末期に中国から渡来したらしい。「仙人は、天にあるを天仙、地にあるを地仙、水にあるを水仙」という中国の古典があり、きれいな花の姿と芳香が、水にある「水仙」のようなところから命名された。別名 「雪中花(せっちゅうか)」。 水仙の香で思い出すことがある。かなり年をさかのぼるが、伊豆半島の爪木崎に水仙を見に行った。その折、海岸で烏賊の一夜干を土産に買ったのだが、おばさんが烏賊を新聞紙に包む際に花の咲いた水仙を二、三本一緒に入れてくれた。水仙の効用とおばさんの粋なはからいに感心したものである。土地の人にはごく当然のことであったのだが。
其にほひ桃より白し水仙花 芭蕉
水仙に狐あそぶや宵月夜 蕪村
月光は受話器をつたひはじめたり越前岬の水仙匂ふ
葛原妙子
野の花の日本水仙年暮るる今日の机上にわれをはげます
窪田章一郎
はれやかに喪服のえりをたてて棲む夫人のヴィラの喇叭水仙
塚本邦雄
立春の水仙の花たましひに及べる水とひとに告げむか
山中智恵子
歳の夢なきにあらねど水仙の手桶は暗き土間に片寄す
馬場あき子
日輪のしろささみしさ春空へ金管楽器水仙鳴れり
小島ゆかり