天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

病を詠む(2/12)

古浴衣(webから)

  冬の日のふかき曇のしづけさよ母の病のひまあるごとし
                       岡 麓
  しづかなる病の床にいつはらぬ我なるものを神と知るかな
                     山川登美子
  病ひ深く身に沁みぬらしみちたぎち流るる水を見れば痛しも
                      古泉千樫
  妻は母に母は父に言ふわが病襖へだててその声をきく
                      明石海人
  弟の形見とわが着る古浴衣ながき病の床に切れそむ
                     窪田章一郎
  なにかたのしき思ひわきをりこの病の癒ゆる望みはなしと思ふに
                     三ヶ島葭子
  枕辺の瓶(かめ)にし惜しむ花すらもとどまらなくにわれは長病む        
                     大熊長次郎


岡麓は幼くして父を亡くし、徳川幕府奥医師であった祖父のもとで育った。やさしい義母を実母と思い、実母をまめまめしい召使いと思い込み、世間の風に当たらずに育った。この歌の母は、義母か実母か。たぶん実母であろう。
三ヶ島葭子は、脳出血のため40歳で東京市麻布区の自宅で死去したのだが、気分としてはたのしい思いが湧いた瞬間があったのだろう。
大熊長次郎は、古泉千樫に師事したが、貧困のうちに胸を病み、昭和8年正月に自殺した。33歳であった。