酒を詠む
今年の短歌雑誌「歌壇」九月号で、「短歌と酒の関係―歌人は酒に何を託したか」という特集を組んでいる。ここでいう酒は、日本酒に限らず、アルコール飲料の総称として扱われている。歌と酒はつきものであり、その典型が演歌である。酒を詠んだ短歌も無数にあるので、今さらという印象がある。ここでは、詠まれた酒の種類に拘って例歌を「歌壇」九月号の中から抽出して以下にあげておく。
しるしなき物を思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし
万葉集・大伴旅人
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり
若山牧水
ブランデーをふふめば春のしづか夜や丸きグラスも掌になじみたる
宮 英子
葡萄酒にパン浸すとき黒々とドイツの樅は直立をせり
岡部桂一郎
焼酎のコップを挙げて相むかふ草氏の顔のややおぼろなり
玉城 徹
いづこにて死すとも客死カプチーノとシャンパンの日々過ぎて
帰らな 春日井 建
ジャックダニエルかの春われに髭濃くて瞋りを呷るごとく飲みいき
永田和宏
泡盛を飲み飲みて愉快なるわれは国際通りによこたはりたり
大口玲子
私が最も憎むのは、最後に上げた歌の状況になることである。まことに見苦しい。若山牧水の飲み方を見習うべし。ついでにわが歌も次に二首。
スコッチと氷グラスにあふれしめ先ずはひと口 味と香りを
昼間からバーボン飲みてわが見るはビデオに撮りし「刑事コロンボ」