天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

錦木

南足柄丸太の森にて

 文字通り秋の紅葉が美しい。夏に黄緑の花が咲く。実は暗赤色で楕円形。その昔、みちのくでは、男が恋する女に逢う時、女の家にこの木を立てたという。女に意志があればこの木を取り入れ、なければ男は木を立て続けた。ただし千本=千束(ちづか)まで、三年間にわたる。この習俗が面白がられて、平安時代以降、歌によく詠まれた。


  錦木は立ててぞともに朽ちにける狭布の細布胸あはじとや
                   能因法師集・能因
  錦木にかきそへてこそ言の葉も思ひそめつる色は見ゆらめ
                 夫木和歌集・藤原顕昭
  思ひかね今日たて初むる錦木の千束も待たで逢ふよしもがな
                   詞花集・大江匡房
  錦木は千束になりぬ今こそは人に知られぬ閨の内見め
                  俊頼髄脳・源 重之
  立てそめてかへる心は錦木の千束まつべき心ちこそせね
                     山家集西行
  錦木にかきそへてこそ言の葉も思ひそめつる色はみゆらめ
                   六百番歌合・顕昭


次に近代に入って詠まれた例を一首あげておく。

  よひに掃きてあしたさやけき庭の面にこぼれてしるき錦木のはな
                       長塚 節