葱(ねぎ)
ねぶかとも言うユリ科の宿根草。中国西部が原産地とされる。わが国でも奈良時代には栽培されていた。「日本書紀」には「葱(き)」の文字がみられる。この一字から、葱を「ひともじ」と呼ぶ女房詞ができたという。品種としては、地中の軟白部を食する根深ネギとやわらかい緑葉を食べる葉ネギとに大別される。前者は関東に、後者は関西に多い。鍋もの、あえ物、薬味などに使われる。
葱(ねぶか)白く洗ひたてたるさむさ哉 芭蕉
易水にねぶか流るる寒さかな 蕪村
死にたしと言ひたりし手が葱刻む 加藤楸邨
寡婦といふ一語に堪へて葱刻む 黄 霊芝
夢の世に葱を作りて寂しさよ 永田耕衣
一もじの葱の青鉾ふり立てて悪歌よみを打ちてしやまん
正岡子規
セメントのにほふ地下駅葱の束解きたるがごと若者らゐる
真鍋美恵子
埋めおきし葱の葉先のいきほひて積りし雪に青あをと立つ
清水五百子
ほとばしる水にうたれてつやめきし脛(はぎ)のやうなる
白葱の束 前川佐重郎