鑑賞の文学 ―俳句篇(25)―
鎌倉を驚かしたる余寒あり 高浜虚子
[山本健吉]
大正三年作。こういう淡々と叙して欲のない句は、説明の言葉
がない。・・・鎌倉の位置、小ぢんまりとまとまった大きさ、
その三方に山を背負った地形、住民の生態などまで、すべて
この句に奉仕する。試みに東京とでも静岡とでも置いてみて、
句になるかを考えてみるとよい。
[飯田龍太]
散文にすると他愛もない内容が、俳句のリズムに乗り、表現の
弾みと固有名詞が巧みに交響して、独特の味わいを出した例。
・・・精一杯の生真面目さで俳諧のおかしみをとらえた句。
* 「余寒」は寒が明けてからの寒さのこと。昔から三寒四温という
ように、春はゆるゆるとやってくる。この句のポイントは、虚子
自身が寒さに驚いたのに、鎌倉が驚いたように表現したところに
ある。鎌倉の他の人々に一々確かめたわけではない。龍太の指摘
するところである。