鏡(3)
鏡に自分の像が映るという現象は、古くから神秘とされた。そこから先ず祭祀の道具として扱われた。鏡が世界の「こちら側」と「あちら側」を分ける面として捉えられ、鏡の向こうにもう一つの世界があるという観念は世界各地の文化に見られるらしい。
鏡に映った自分を自分と認識できる能力を「鏡映認知」と呼び、動物の知能を測るために鏡が用いられる。鏡映認知は自己認識の第一歩とされる。ちなみにチンパンジーは、鏡に映る姿を自分自身として認識し、毛繕いのときに役立てるというが、まだその様子を見たことがない。
手鏡に冬のみどりがのぞきたり眉ひきをへて立ち上がるとき
小野光恵
前・右・左後もすっぽりと三面の鏡に初秋閉ぢ込められぬ
古舘公子
火中(ほなか)にし問ひけるひとは狂はぬをわれはながるる
鏡をもてり 水原紫苑
われらみな通りすぎゆくものならむ朝の鏡面を走る蜘蛛あり
和田美代子
動物園その奥ふかく鏡あり「最悪の獣」ほほゑみてゐつ
坂井修一
右上の画像は、喜多川歌麿のある浮世絵の片隅に描かれている情景だが、犬には鏡映認知の能力が無いことを暗示している。