時間を詠む(1)
「時間」は昔から哲学者、科学者を悩ませてきた。その定義もさまざまであった。歴史をたどるだけでも大変である。人類はその誕生以来、時の移り変りを天体の運行や動物の生と死なの事象から認識していた。天体の運行からは、一定の周期つまり時間の概念を得たであろう。
生きるとは時間の川を抜手きるひとりひとつの影と思いぬ
佐々木幸綱
火も人も時間を抱くとわれはおもう消ゆるまで抱く切なきものを
佐々木幸綱
残されたる時間をおもふ残されたるいのちをおもふ時間はいのち
吉野昌夫
一枚のはがきわづかに書きしのみ夜の時間は早瀬のごとく
吉野昌夫
ビルの間の空を水平によこぎりて一機ゆくとき時間が見ゆる
吉野昌夫
ながきながき思い心に重ねつつ老年というさびしき時間
近藤芳美
時間をチコに返してやらうといふやうに父は死にたり時間返りぬ
米川千嘉子