春潮(はるしお)(1)
春の海水。春になると潮の色がしだいに淡い藍色になり、明るくあたたかく感じられるようになる。干満の差も激しくなる。春の潮(潮は「しお」あるいは「うしお」)、春潮(しゅんちょう) などとも言う。
悲しみてひとり来たれる現身を春の潮のおとは消たむか
斎藤茂吉
春あさきうしほのながれ大空のいろよりさむくながれたるかも
前田夕暮
補聴器の底にゆたかに籠りつつ鳴り継ぐは是(これ)春の潮の音
森本治吉
皓く噛む春じほすずし岩かげにおりゆけば何の鈴(れい)なるや鳴る
生方たつゑ
三年ぶりに二人見てゐる入海に春の潮(うしほ)はほそく崩れをり
河野愛子
逝きし人の跡なめらかに埋めつつ春の潮(うしほ)は引きてゆきたり
北沢郁子
春潮の遠くいざなふ音をつたふこの耳はけふも旅人の耳
清原令子