天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー髪(10/13)

  そのなびく髪は感情のごとくにて遠渚こそかなしかりしか
                    上田三四二
  春宵に眼とぢおもへばそそぐ湯に黒髪はくちなはのごとくありしを
                    上田三四二
*これら二首は、いずれも奥さんの髪に関して詠ったものだろう。

  黒髪を手にたぐりよせ愛(かな)しさの声放つまでしひたげやまず
                     岡野弘彦
*なんともサディスティク。読んで不快になる。

  髪梳けるちからこもりてひたぶるに春の潮(うしほ)をひきしぼるなり
                     雨宮雅子
*下句は、暗喩。

  水のごとく髪そよがせて ある夜の海にもっとも近き屋上
                     永田和宏
  きみが手の触れしばかりにほどけたる髪のみならずかの夜よりは
                     今野寿美
  むずと蓬髪の上に置かれし手 唯一者の体温を伝えしならん
                     前田 透
永田和宏、今野寿美、前田 透の三者の作品は、いずれも相聞歌。わけても今野の歌は、女性なるがゆえに生々しい。

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春潮 (webから)