天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

句集『遺産』を読む(2)

昨年の年賀状から

 句集の作品から、森尻さんが日本や海外の各地に出かけられていることが分る。海外で詠む俳句の難しさは、季語が日本の場合のようには調和しないところにある。子規、虚子を初め現代俳人まで多くの試みがあるが、あまり話題にならない。季語に替って歌枕(地名、遺跡、有名な芸術作品・人 など)を取りあげればよい、との意見もある。
森尻さんの作品では、季語と地名・地形や建造物などの歌枕とが詠み込まれていて、海外詠を考える参考になる。


       エジプト三句
     王国の眠れる砂漠冬銀河
     冬暁のコーランに醒めナイル河
     ピラミッド見て来し夜の生姜湯
       北欧三句
     木の教会岩の教会蔦紅葉
     草紅葉氷河は蒼く翳りをり
     鵲やシベリウスとその妻の墓


     灼くる空ホロコーストの碑の数多


       オランダ・ベルギーの旅二句
     初秋のデルフト焼の藍のいろ
     北海のムール貝食ぶ星月夜
       インド四句
     春驟雨タージマハルは白極め
     涅槃西風聖なる牛の痩せてをり
     かげろふやコブラは笛の音にくねり
     街道を水牛のゆく遅日かな


森尻禮子さんとは山田みづえ主宰の「木語」でご一緒した。わが片思いの才媛であった。「木語」終刊の後、鍵和田秞子主宰「未来図」に入会、同人として活躍されている。

       『遺産』刊行を祝して
     現代の俳諧思ふ夜長かな