風の詩情(1)
風の語源を調べると、次のような説明がある。「かぜ」の「か」は空気の気、気配の気からきている。「ぜ」は「し」が転じたもの。古事記に風の神・志那都比古神の、「志那(し・な)」には「息が長い」という意味があり、「し」に風の意味がある、という。表記については、風の神と考えられた(おおとり、鳳)の象形に由来する。
狭井川よ雲立ち渡り畝傍山木の葉さやぎぬ風吹かむとす
伊須気余理比売『古事記』
山越しの風を時じみ寝る夜おちず家なる妹を懸けて偲ひつ
軍王『万葉集』
采女の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く
志貴皇子『万葉集』
風をいたみ沖つ白波高からし海人の釣舟浜に帰りぬ
角麻呂『万葉集』
風高く辺には吹けども妹がため袖さへ濡れて刈れる玉藻ぞ
紀女郎『万葉集』
一つ松幾代か経ぬる吹く風の音の清きは年深みかも
市原王『万葉集』
風吹きて海は荒るとも明日と言はば久しくあるべし君が
まにまに 柿本人麻呂歌集『万葉集』
近江の海波畏みと風まもり年はや経なむ漕ぐとはなしに
作者未詳『万葉集』