わが歌枕―吉野山(2/3)
吉野山は、大峰山を経て熊野三山へ続く山岳霊場の北端にあたる。飛鳥時代に活躍した修験者・役小角は、金峰山で、金剛蔵王大権現を感得し、この地に蔵王権現を本尊とする金峯山寺や修行道である大峯奥駈道を開いたとされる。役小角は蔵王権現像を桜樹を使って彫ったとされる。そこから桜が蔵王権現の神木とされ、以降、吉野山に多数の桜が植えられるようになり、桜の名所ともなった。
春霞立てるやいづこみよしのの吉野の山に雪は降りつつ
読人不知『古今集』
こほりこそ今はすらしもみ吉野の山の滝つ瀬こゑもきこゑず
読人しらず『後撰集』
よしの山たえず霞のたなびくはひとに知られぬ花やさくらむ
中務『拾遺集』
さくら花さきぬるときはよしのやま立ちものぼらぬ峰のしらくも
藤原顕季『金葉集』
白雲と見ゆるにしるしみよし野の吉野の山のはなざかりかも
大江匡房『詞花集』
吉野山はなやさかりに匂ふらむふるさと去らぬ峰の白雲
藤原家衡『新古今集』
よし野山はなのふるさとあと絶えてむなしき枝に春風ぞふく
藤原良経『新古今集』
いまはわれ吉野のやまの花をこそ宿のものとも見るべかりけれ
藤原俊成『新古今集』
いかばかりは咲きぬらむ吉野山かすみにあまる峰のしら雲
寂連『新勅撰集』
吉野山なほしもおくに花さかば又あくがるる身とやなりなむ
慈円『新勅撰集』